解約する場合 は,約定により,書面により申し入れすることとされているが,書面に よる解約申し入れはなく,解約は成立していない。
原告が仲介業者の従 業員のEに解約を申し入れたとしても,被告は仲介業者に賃借人の募集 を依頼し,本件契約は締結され,金銭の授受はなされ,仲介業務は終了 しているから,被告に対して,いかなる効果も生じない。
原告は,本件 建物に一度も入居しておらず,被告としては,入居する意思はないもの として,同年12月末日をもって本件契約は終了したものとして扱い, 同21年1月から原告とは別の入居希望者に賃貸したものである。
(3) 敷金に関しては,約定により,全額償却するものとされている。
本件 建物の家賃は月額20万円から25万円が相場であるが,全額償却を前 提としていること,賃貸借期間は5年で,延長は認めないという定期借 家契約を条件としていることから,月額15万円で賃貸しようとしたが, 原告から減額の申し出があったことや,2階部分はリフォームせず,2 階にある5部屋のうちの2部屋に本件契約時に置かれていた荷物を引き 続き置かせてもらうという条件で,月額12万6000円にしたもので ある。
敷金は60万円で全額償却するのが相場であるが,本件では敷金を3 0万円としていることから,これを全額償却としても,賃貸人に一方的 に有利とはいえず,敷金の償却の約定が社会的相当性を逸脱していると もいえない。
(4) 鍵交換代については,原告が費用は負担するので鍵を交換して欲しい ということで,交換に要する費用として,被告は仲介業者の従業員であ るEから2万1000円を受け取ったものである。
被告が鍵交換代を負担することになっていたのであれば,そもそも原 告はEに鍵代を支払う必要はなかったはずである。
3 原告の主張
(1) 本件契約はすべて仲介業者であるFを通じて行われており,担当者は Eであったことから,解約もEを通したもので,一般的に解約申し入れ は仲介業者を通して行われるものであるから,本件でも解約申し入れは 有効である。
なお,解約申し入れは書面で行っている。
(2) 敷金を全額償却する旨の契約条項は,賃借人の権利を不当に制限する ものであるから無効であり,被告は敷金返還義務を負うべきである。
被告から敷金を全額償却する代わりに家賃を低額に抑えておくという 説明は受けていないし,家賃は低額ではなく,適正な額である。
(3) 引っ越しの際に鍵の交換を行うのは常識である。
勤務債務現在額
平成14年4月1日,確定給付企業年金法が施行され,実情にそぐわなくなった適格退職年金制度を廃止し,10年の猶予期間を設けて他の退職金確保のための制度へ移行させることとなった(確定給付企業年金法附則)。
すなわち,同日以降における適格退職年金契約の締結を認めない一方,平成24年4月1日以降適格退職年金契約を継続していても,退職年金の積立金に対する税法上の優遇措置を受けられないようにして,適格退職年金制度を採用する利点をなくし,適格退職年金制度から他の制度への移行を促すことになった。
低金利・資産運用難が続く中で,適格退職年金制度を採用している中小企業の積立不足は拡大しているから,他制度への移行は,できるだけ早期にされる必要があった。
ウ被告においても,適格退職年金制度の採用時に設定された予定利率は年5.5%であり,いわゆるバブル経済崩壊後に利回りが1%以下になった状況下で,積立不足は拡大し,予定利率の変更,掛金の引上も到底できない状況にあった。
すなわち,平成15年5月31日における責任準備金(予定利率5.5%のもとで計算上積み立てられているべき累積積立金額)は4911万8109円であるのに対し,年度末保険料積立金(実際の積立金の累計額)は1558万8159円であり,当年度(平成14年6月1日ないし平成15年5月31日)の積立不足金は201万6196円,過去勤務債務現在額(当年度より前の積立不足金の累計額)は3151万3754円であった。(乙第15号証)
そのため,被告においても,適格退職年金制度から他の制度へ速やかに移行する必要があった。
エ適格退職年金制度から移行すべき制度としては,厚生年金基金,確定拠出年金,確定給付企業年金,中退共があった。
原告は仲介業者から 鍵交換代として求められた金額を支払ったに過ぎない。
第3 裁判所の判断
1 原告と被告間で本件契約が締結され,その後,本件契約は終了している 事実並びに敷金,平成20年11月分家賃及び鍵交換代を原告が被告に支 払った事実は,当事者間に争いはない。
2 本件契約の終了理由,被告に敷金等の返還義務があるのかという点に関 して,当事者間に争いがあるので,以下,検討する。
(1) 本件契約終了理由について
原告は合意解除ないし原告からの解約申し入れにより,本件契約は終 了した旨主張するのに対し,被告はそれらの事実をいずれも否定し,原 告が入居しないので,平成20年12月末をもって本件契約が終了した ものと扱った旨主張している。
甲4,甲5及び原告の弁論によれば,同年10月24日に原告はEに 解約の申し入れを行い,同月25日にEは被告にその旨伝えた事実が認 められる。
ところで,被告の弁論によれば,被告は原告の解約申し入れに納得し ていなかった事実が認められること,本訴が提起されているということ は,原告と被告間で,現在にいたるも本件契約に関する精算が行われて いないことの表れであることからすると,原告と被告間で,合意解約が 成立したものと解することは困難である。
しかしながら,原告から被告に対して,解約申し入れが行われた事実 は認められることから,本件契約は解約によって終了したものと解する ことはできる。
なお,この点に関して,被告は被告自身に対する解約申し入れがなか った旨主張し,さらに,本件契約条項上,書面によることとされている が,書面によっていない旨主張している。
しかしながら,甲5によれば, Eを通して,原告の解約申し入れは被告に伝えられたものと認められる し,被告自身,原告は幽霊が出る,妖気を感じたとして,本件契約に因 縁をつけてきたので怒りを抑えることができなかった旨述べており,原 告から解約申し入れがあったことを知っていたことを推認させる弁論を 行っている。
また,被告は甲4の書面は見たことがない旨述べているが, 原告の弁論からすれば,原告がEに解約申し入れを行った際,原告はE から甲4の書面に署名押印するよう求められ,甲4はその場で作成され たものであると認められるから,書面による解約申し入れはなされたも のと解される。
Eは仲介業者としての立場で,本件契約の締結に関与し ており,Eによって,原告の解約申し入れは被告自身に伝わっているこ とからすると,Eを通じて行われた原告の解約申し入れが無効となるい われはない。
甲2によれば,同年11月分の家賃は同年10月6日に支 払済みであることが認められることから,甲1の14条の規定により, 本件契約は被告に告知されたと考えられる同月25日に終了したものと 解するべきである。
(2) 敷金等の返還義務について
甲1の契約条項7条には,保証金(敷金)30万円は全額償却する旨 の記載が認められるが,敷金は一般に賃貸借契約から生ずる賃借人の債 務(未払家賃や賃借人が負担する必要のある修繕費等)を担保するため に賃借人から賃貸人に差し入れられたものであるから,賃借人に未払家 賃,修繕費等の債務がない場合には,他に合理的な理由がない限り,賃 貸人は賃借人に返還する義務を負い,これと異なる定めは消費者契約法 10条により無効になると考えるべきである。
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